「EQUALを通して日本の自転車文化を世界に発信する
—株式会社グロータック代表取締役
  木村将行

近年、自転車部品の性能は、変速の多段化やディスクブレーキシステムの普及によって飛躍的に高まっている一方で、メーカー間の互換性は失われる傾向にあり、ユーザーの選択肢は狭まってきている。そんな中、ユーザーの選択肢を広げるための自転車パーツや機器の開発しているのが「グロータック(=GROWTAC)」という会社である。現在グロータック社では、ワイヤー式ながらも油圧式に近い制動力を発揮するブレーキキャリパー「EQUAL」、静音性に優れたローラー台の「GT-Roller」シリーズ、さらにカンパニョーロ製のシフトレバーでシマノ製のドライブトレイン変速を可能にする「EQUAL-PULLEY」などの製品を製造・販売している。少人数の体制ではありながらも、多くの製品を生み出している背景には何があるのだろうか。今回は、グロータック社の代表である木村将行氏に、自転車に密接したものづくりに関わるようになった背景と、その情熱やこだわりについて、話を聞いた。

グロータックのものづくりは、一台の旋盤から

——まずは、木村さんと自転車の関わりについて教えてください。

木村 本格的に自転車に乗り始めたのは高校生の頃です。自転車部に所属し、インターハイなどのレースにも出場しました。卒業後は競輪選手になる誘いもありましたが、機械系の仕事がしたかったこともあり、競技の道には進まず、会社員になることを選びました。

——では高校卒業後は、自転車競技から離れていたのでしょうか。

木村 そうですね。20代の後半のころになってまた競技に戻り、シクロクロスやMTBなどのレースに出るようになりました。シクロクロスのオフシーズントレーニングとしてロードレースにも参加するようになり、Jプロツアーなどにも参戦していました。

——自転車競技に深く関わる一方で、ものづくりにも関わるようになった経緯を教えてください。

木村 当時チームから供給されていたカンパニョーロ社のシフトレバーで、シマノ社のディレイラー(=変速機)を動かしたくて「EQUAL-PULLEY」などのパーツを作り始めたのがきっかけです。他にも、サイクルコンピューターにバックライトを後付けするためのアタッチメントなども作っていました。当時は20万円くらいの旋盤を買って一人で作って周囲に売っていたのですが、ネットで販売しはじめたところ、ブルベ(=長距離を制限時間内に走破する競技)を楽しむ方々をはじめとなかで評判になり、少しずつビジネスとして考えるようになりました。

一般人がハードウェア関連の事業で独立することの難しさ

——「GT-Roller」シリーズを製作しようと思った経緯はどのようなものでしたか。

木村 ロードレースの参戦や往復100kmの自転車通勤などは会社からは反対されていて、結局自宅の近くの事業所に異動させられてしまいました。その結果、練習時間を確保できなくなり、ローラー台を用いたトレーニングを始めることにしました。しかし、当時はローラー部の精度や静音性が低いなどの点で満足のいくローラー台がなく、ならば自分で作ってしまおうと思ったのがきっかけでした。

——ローラー台は部品数が多いですが、製作は大変ではありませんでしたか。

木村 その頃は、自分の小遣いの範囲で部品を発注し、六畳一間の自室で組み立てていました。部屋の中は組み立て途中のローラー台や部品などが山積みになっていました。そして3年ほどの時間をかけて完成した最初のローラー台を原型に、現在の「GT-Roller F3.2」を開発しました。

——その最初のローラー台を販売し始めた頃に、グロータックとして独立されたのですか。

木村 そうですね。最初に販売したローラー台は50台ほどだったのですが、既存製品よりも良いという評判をいただき、完売させることができたことで、事業としてやっていく自信を得ました。ちょうどその頃、本業の仕事に思い悩んでいたこともあり、独立を決断しました。

——独立までに、どのような準備をしましたか。

木村 副業としてある程度形にしてから独立したのは、一般人がハードウェア関連の事業で独立することの難しさを感じていたからです。売れるかどうか分からないものを売り始めるには相当の資本が必要です。たまに「ハードウェアの事業で独立したい」という相談を受けますが、「最初は趣味で始めてみて、上手くいったら独立してはどうか」と答えるようにしています。借金をしてまでいきなり始めるのは勧めません。実家がお金持ちだとか、強力な後ろ盾があるなら別ですが。

ロジカルに判断できない部分を紐解いて製品に入れ込む

——この数年、コロナ禍で在宅トレーニングが流行しましたが、ローラー台の売り上げは好調でしょうか。

木村 コロナウイルスのパンデミック直後の売り上げは好調でしたね。ただ、その後すぐに「自転車は密を避けられ安全である」という認識が広がり、外で走るサイクリストが増えたため、現状のローラー台の売り上げはそれほど伸びていません。

——製品開発の際に大切にしていることはありますか。

木村 マーケティングやものづくりなどにおいて、あまりロジカルに判断しすぎないようにしています。というのも、使ってみて感じる「良い」「悪い」というのは主観ですから、作っている側が「なぜ良かったのか」「なぜだめだったのか」というのをロジカルに理解しようとしても、よく分からないことが多いんです。そうした、材料工学的に計算することができない部分を紐解いて製品化することを大事にしています。

——具体的にはどのような形で取り入れているのでしょうか。

木村 使用時のフィーリングを重要視しています。たとえば、現在開発中の「EQUAL-LEVER」には、一般的な変速レバーのようなラチェット機構が入っておらず、変速した時のクリック感がありません。そこで、「クリックプレート」を用いて変速時のフィーリングを高めるための工夫に多くの開発時間をかけています。

自転車の本質的な面白さはコミュニケーション

—現在グロータック社では、「EQUAL」の名を関した変速系や制動系のコンポーネントを展開していますが、このシリーズはどのようにして生まれたのでしょうか。

木村 現在、コンポーネントはメーカーやグレード間の互換性の低さによって、メーカーにパーツ選択の主導権を握られている状況だと言ってよいと思います。一昔前までは、新製品に対して強い期待感を抱くユーザーが多かったように思いますが、最近では新たな製品に付いていけないという風潮も強く、いわば「スペック疲れ」を起こしているのではないかと思います。グロータックのEQUALのコンポーネント は、メーカーによって敷かれた互換性のレール以外の選択肢を提示することで、ユーザー一人ひとりが互換性に囚われず、使いやすいと思う部品を使えるようになることを目指しています。

——EQUALコンポーネントの登場によって、具体的にはどのような自転車を組めるようになるのでしょうか。

木村 規格が変化して互換性が無くなることに加え、昨今の油圧ディスクブレーキ化でブレーキシステムを入れ替える必要が出てくることなど、ユーザーにとって出費が増える場面が多くなっています。現在開発中の「EQUAL-LEVER(仮称)」は、変速段数やメーカーを問わず手持ちの変速機の流用を可能とする変速レバーです。また、「EQUAL」のブレーキキャリパーでは既存部品を流用して高性能なディスクブレーキシステムを使えるようになります。結果として、サイクリスト個人の考えが反映された、さまざまなスタイルの自転車が組めるようになると思います。

——EQUALコンポーネントは海外展開も見据えているのでしょうか。

木村 海外では、自分たちの価値観を具現化するためのものづくりが盛んで、それが特定のジャンルのムーブメントを起こすこともあります。日本には自転車のパーツメーカーがほとんどなく、日本人の価値観を反映したものづくりをする土台がありません。ロードバイク文化が強い日本において「もっと自由にロードバイクを楽しみたい」という価値観を反映して生まれたのがEQUALですから、海外へ日本の価値観を発信していけたら嬉しいですね。

——EQUALのコンポーネントを通して、叶えたい目標はありますか。

木村 自転車ショップとお客さんのコミュニケーションの活性化につなげたいですね。自転車の本質的な面白さはコミュニケーションだと私は思っているのですが、近年では、海外通販などが普及し、特にお店とユーザーのコミュニケーションは失われているように感じます。EQUALのコンポーネントによってパーツの選択肢が増えますから、ユーザーの方々は積極的にショップと相談しながら組んでみて頂きたいですね。結果的に、お店がコミュニケーションの中心となってくれたら嬉しいです。

(了)

Interview&Text●moving_point_P(ponkotsu)

Proofreading●Kohei Matsubara

Photo●KuroMino, moving_point_P(ponkotsu)

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