「小さくてもグローバル」のロールモデルになりたい
―株式会社イルカ代表取締役
小林正樹 後編

折りたたみ自転車ブランドirukaを展開する株式会社イルカの創業者、小林正樹氏。前回では、小林氏がirukaを開発するに至る背景と経緯、そこでの困難について話を伺った。今回は、新興のブランドであるirukaを国内ひいては海外に展開するにあたっての販売戦略について伺った。また、irukaに託す夢や、日本のものづくりで活躍したいと考えている人たちへのアドバイスについても伺った。

日本のメーカーが海外に進出するカルチャーを作っていきたい

——販売戦略について伺います。既に市場には多くの折りたたみ自転車ブランドが存在しますが、参入するにあたってどのようなことを考えましたか。

小林 新興ブランドですので、まずは一人でも多くのユーザーに信頼感を持ってもらい、そこから情報を拡げてもらうことを重視しました。「影響力の強い折りたたみ自転車専門店には必ずirukaが置かれている」という状況をつくることができれば、ユーザーに「信頼できるメーカー」と捉えてもらえるのではと考え、まずは東京・横浜エリアの有力店8店舗に絞って展開することにしました。

——店舗にirukaが置かれるまでに、どのようなやりとりがありましたか。

小林 第7世代目あたりのプロトタイプから、試作車をそれらの店舗に持って行って、店主やスタッフの方々に安全面や走行性能などを確かめてもらい、販売とメンテナンスの観点からアドバイスをもらいました。

その結果、ワイヤーの取り回しやシートポストを固定するボルトの形状などの細部が改良され、販売店との信頼関係を築きながら製品のクオリティを高めることができました。

——国内発売開始後すぐに海外にも販路を拡大しましたが、当初から海外進出を予定されていたのでしょうか。

小林 そうですね。当初から、irukaを小規模ながら世界中で売れる「Micro but Global」なブランドにしたいと考えて、「海外売上比率を50 %以上にする」という目標を掲げていました。

現在は国内と海外でちょうど50 %ずつとなり、その目標は達成できたので、今後は海外売上比率を70%以上、販売エリアを20か国まで拡大することを目標としています。

——海外展開にこだわるのはなぜでしょうか。

小林 せっかく自転車というユニバーサルな製品を作るからには、少しでも多くの国の人たちに使ってもらって評価されたいと思っていました。理屈の上でも、日本は人口減少・高齢化の一途を辿っており、市場として縮小していくのは明らかです。

irukaが「小さなブランドでも海外に通用する」というロールモデルとなることで、これから登場する日本のメーカーが海外進出を当然と考えるカルチャーを作っていきたいとも考えています。

——自転車で世界市場を狙う強みはありますか。

小林 自転車のようなハードウェアには言語の壁がないので、サービスやソフトウェアに比べて積極的に海外に挑戦しやすいと思います。    

世界市場で武器になる、「日本」という価値

——海外展開に至る具体的な経緯を教えてください。

小林 どこの国でも有力な輸入代理店は数が限られてくるため、探すに当たってある程度どの代理店にコンタクトを取るかの見当はつけていました。初めての海外進出であったインドネシアへの展開は、日本のとある自転車販売店の社長に紹介していただいたのがきっかけでした。

irukaの国内発売開始から1か月ほど経ったある日、その社長さんから「インドネシアの有力代理店の代表がirukaに興味を示している」との連絡を受けました。それがちょうど当たりをつけていた輸入代理店だったことから、すぐにインドネシアに会いに行って話を進めました。6 月に国内で発売し、同年の11月には発売することができました。

——これほど早期での海外展開は予想していましたか。

小林 「まず日本で評価を確立してから海外へ進出する」と考えるブランドが多いと思いますが、個人的にはそういった順序を踏む必要はないかもしれないと思っていました。実際に海外展開した後でも、国内市場よりもむしろ海外市場の方が「日本発のブランド」という価値を高く評価してくれると感じています。今では、国内より海外の方が先でも良かったかもしれないとさえ思っています。

——海外でも日本と同様の需要は見込めましたか。

小林 日本も折りたたみ自転車の一大マーケットではありますが、海外でも大都市を中心に折りたたみ車の人気は高まっています。具体的には、インドネシアのジャカルタ、スペインのバルセロナ、シンガポールなどですね。

どこの国でも大都市は住宅が狭小になりがちですし、公共交通機関との親和性も高い折りたたみ自転車には強い需要があります。

——国内外を問わない折りたたみ自転車の魅力とは何なのでしょうか。

小林 収納しやすい、持ち運びできるといった実用性だけでなく、からくり人形を愛でるような「ギミックの面白さ」を感じる愛好家が各国に一定数いるのだと感じます。

その点、irukaは新たな折りたたみ機構を備えた自転車として、世界中の折りたたみ自転車愛好家に評価されつつあるのだと思います。

自転車は「最高の乗り物」

——irukaを通して、小林さんが世界で叶えたい夢はありますか。

小林 自転車は、速く、健康的で、地球にも優しい「最高の乗り物」だと思っています。自転車に乗ると、健康や環境や街のことなど、様々なことに意識が高まり、行動が変わっていきます。自転車に乗る人が増えることは、私たちの周りの多くのことに良い影響をもたらすと考えています。ただ、「みんな自転車に乗りましょう」というメッセージをメーカーが発するのは、あまり好きではないんです。

それよりも、「カッコいいから自然に欲しくなる」自転車を作ることがメーカーの使命だと思います。irukaに乗る人が増えることによって、より多くの人が自転車に乗るようになると良いですね。

——最後に、モノづくりで活躍したいと思っている方々にアドバイスをお願いします。

小林 これから挑戦する人には、ぜひ一緒に頑張りましょうと言いたいです。

irukaは発売までに試作費や金型代などに数千万円のコストがかかりましたが、今はクラウドファンディングで初期ロットの生産コストを先に調達する方法もありますし、3Dプリンターなど少量生産の手法も進歩していますから、モノづくりに挑戦する人がどんどん増えてほしいです 。

特に海外で勝負したいという人は、私もお手伝いしていきたいです。

(了)

Interview&Text●moving_point_P(ponkotsu)

Proofreading●Kohei Matsubara

Photo●KuroMino

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